シャンプーのコトといい、少し強引でマイペースなツバサ。
「美鶴ー いないのぉ?」
電話には基本的に出ないようにしている。瑠駆真や聡だったら、困るからだ。
瑠駆真へは終業式の日に怒鳴り散らしてしまったし、聡とは夜の学校で―――
今は、そのどちらとも会話をしたくない。
留守電に切り替わった電話から、ツバサのハキハキとした声が響いてくる。
「あーっと、私っ ツバサだけど、この間のシャンプーの件で――――」
「もしもしっ」
「あっ…… なんだ、いるんじゃんっ」
シャンプーという言葉に思わず受話器を取ってしまった自分に驚く。
いったい自分は、何をやっているのだっ
「あ…… あぁ、ちょっと手が離せなくって」
「あぁ そうなの?」
言い訳に不信感も抱かず、さっさと本題を切り出すツバサ。
「この間のシャンプーさぁ やっぱどこの店にも置いてないんだよねぇ」
「そ… そうなのか」
てっきり、置いている店を見つけたという知らせなのかと思っていた。
見つからなかったという報告など、わざわざしてくれなくてもよいのに。紛らわしい。
口に出さない不満を心内で呟くところに、ツバサの軽快な声。
「でもさぁ ネットで見つけたんだよね」
「ネット?」
思わず聞き返す声が嬉しいのか、ツバサは自慢げに声をあげて笑った。
「あのシャンプーにさぁ、販売元が書いてあったじゃん。ネットで検索したらさぁ、そこのホームページに繋がったんだよね」
なるほど。ホームページを持つのは企業としては当たり前の世の中。どんなに小さな個人企業でも、簡単なホームページは開設している。
「でさ、そこに直接注文すれば、送ってくれるみたいだよ」
ツバサの話では、どうも小さな販売元のようだ。ゆえに営業活動もあまり大々的にはできないようで、だからたぶん店頭には並ばないのだろう。
そのような会社が、なにゆえこのような銀梅花などという非一般的なモノに手を出したのかはわからない。会社の庭に、銀梅花の木でもあるのだろうか?
「でもここさ、コンビニ先払いって方法しか支払い方なくってさぁ。代引きとかやってくれるんならいいんだけど…… あ、でも代引きだと300円くらい別で手数料がかかったりするんだよねぇ」
ネットで買い物をしたことのない美鶴には、よくわからない事情だ。
「とりあえず、騙されるの覚悟で一個買ってみようかなって思うんだ。それでちゃんと商品送ってくるようならさ、美鶴に連絡するよ」
販売元のコトとかもさ、もう少し調べてみる。などと付け足して、元気な電話は一方的に切れてしまった。
いつもながら、元気なヤツだな。
ツーツーと澄ました音を出す受話器を見つめながら、だが美鶴は、そんなツバサの行動をお節介だとは思わなかった。
あのシャンプー、無くなってもまた買える。
そっと触れた毛先から、微かに甘い香りが漂った。
「でさ? どこ行ってたの? 留守だったでしょ?」
「う…… あぁ まぁ……」
訝しげに顔を覗き込んでくるツバサの顔を避けるように、ゴクリともう一口を含む。
商品が無事に送られてきたことなどを知らせるツバサからの連絡を、美鶴は留守電で知った。
ツバサが連絡をした時、今度は本当に、家にはいなかった。
夜の八時頃と翌日の朝十時頃。だが、どちらの時間にも、美鶴はいなかった。
「夜遊び? いけないなぁ〜」
「そんなんじゃないっ!」
語気を荒げて言い返すが、じゃあ一泊どこにいたのかと問われても、答えられない。
どう答えればよいのか、わからないのだ。
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